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印象に残ったお葬式を紹介。
ただし、葬家の名前はプライバシー保護のため仮名です。
なお、文中のNは無宗教葬・家族葬ネットのスタッフです


 

「葬儀屋にだまされているのよ!」


 三ヶ月まえから、奥さまから相談を受けていた。本人は家族だけでこぢんまりとした葬儀を望んでおられた。退職して20年以上もたっているし、ご親族も九州におられて、心配を掛けたくない様子だった。

 年金くらしで、先行き不安なこのご時世、気持ちがあっても葬儀にはあまりお金を掛けたくないというのが本音かもしれない。また、子供たちにも迷惑はかけたくない、自分たちのことは、自分たちで始末したいという思いが強いようだ。
 ご主人の様態が急変したのは、暑い夏の真っ盛りだった。病因にかけつけたときは、お子さんの脇で奥さまは、うなだれていた。
 
 九州に連絡をとると、奥さまの願いは一変した。ご主人のご兄妹、伯父の家族が上京するようだ。家族だけでと伝えたそうだが、九州の葬儀のしきたりが電話の向こうで采配をふるう。挙げ句の果てが、「家族葬なんて、葬儀屋にだまされているのよ」とまでご心配をいただいたようだ。
 
 式当日、午前中からスタッフが、ご自宅の掃除にいった。式場は、公営斎場だが、旅支度と納棺をご自宅でしてもらうためだ。応接間のテレビ、タンス、応接セットを外のベランダに出し、掃除機をかけ、雑巾がけをした。クーラーもきかないのでスタッフは汗だくだ。

 このころから、九州のご親戚の方の態度が変わりはじめた。「東京の葬儀屋さんて、ここまでしてくれるの」と。

 納棺式がはじまった。「宗旨の浄土真宗の教えの中心は、他力本願にあるといわれています。これは、ご承知のとおり、他人まかせという意味ではありません。

 自力ではなく、つまり人間の浅はかな知恵ではなく、他力つまり阿弥陀如来さまの大きな力で極楽浄土に往生しよう、またそれが阿弥陀如来の願いだという意味のようです。

 この教えからすれば、浄土真宗では、故人は冥土の旅にでることなく、阿弥陀如来のお力ですぐに極楽浄土へ向かわれます。このため旅支度の必要はないといわれていますが、極楽浄土の生活になれるまで身支度の心配がないようにご親族のみなさんの手で整えてあげていただきたいと思います。よろしいでしょうか」

 ご親戚の方もうなずき、納棺式がはじまった。一つ一つ解説しながら、足袋、脚絆、手っ甲、六文銭、数珠に経帷子がととのえられる。
 一時間もたっただろうか。ご遺体が、棺に収められて、霊柩車で式場にむかった。

 通夜がはじまる。ご導師(お坊さん)が入場されるまえに、式のながれを説明する。「これから、ご導師さまが、お香で場内を清められ、ご本尊の阿弥陀如来さまをはじめ、諸菩薩、諸天をおむかえし、阿弥陀如来さまのお力で故人が極楽浄土へ往生しますようにと南無阿弥陀仏とお唱えします。

 南無とは、身もこころもささげますという意味です。阿弥陀仏はもちろん阿弥陀如来さまですね。どうぞ、みなさんもお焼香をされ、また、手をあわされ、阿弥陀様に故人が往生できますようお願いしてください」

 翌日、葬儀もおわり、故人は荼毘に付された。火葬の待ち時間にいつものように和菓子とお抹茶をたててさしあげる。「東京では、お抹茶がでるの」とご親族が感心されていた。イヤ、全国でも我が社だけと思いつつ。

 一日開けて、スタッフが集金にうかがった。喪主の奥さまがいった「九州の親戚の間では、あなたちはヒーローよ。これだけ詳しく、ていねいな葬儀ははじめてみたいよ。親戚が亡くなったら、九州まで来て欲しいといっていたわよ」さらに畳みかけるように「仏壇は買わないつもりだったのに、親戚が絶対必要だからといって、あなたちに相談するようにといわれたのよ」

 お褒めの言葉をいただいて、笑顔で事務所にもどってきたスタッフはいった。「ヒーローは言い過ぎだよね。でも、風習のちがう地域の人たちに理解されて、なんとなくうれしいね」と。

 

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